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消えたエレメンツ・オブ・ハーモニー

プロローグ




“――私は虹が憎い。”



太陽が今日も昇っていきました。そう、朝が来たのです。
この朝の光を浴びて、エクエストリア中のポニーが目を覚まします。
ポニーヴィルの図書館に暮らすトワイライト・スパークルもそのひとり。
彼女は窓から射し込む光の眩しさに目をつむって、そして今日も一日が始まったことを知りました。
昨日の夜は夜更かししてずっと本を読んでたから、まだまだ寝足りません。
しかし彼女は勉強を欠かしてはいけないのです。
彼女はぼさぼさの髪をくしで整えながら、今日は何を勉強しようか考えることにしました。

「トワイライト、おはよう。プリンセスから朝一番で手紙が来ていたよ」

そこへ手紙を持ってやって来たのは彼女の助手、ベビードラゴンのスパイク。
プリンセス・セレスティアが手紙を、しかもこんなに朝早くになんて。
トワイライトは不思議に思ってその手紙を開けてみました。

「親愛なる弟子、トワイライト・スパークルへ。
 この手紙を読んだら至急、あなたのお友たちを連れて私の元へ来るように、ですって。
 ねぇ、スパイク。私たち、何かしたっけ……?」

「いいや、知らないけど……とにかく、みんなを連れてプリンセスのところへ行こうよ!」

スパイクは部屋の奥から鞄を持ってきて、トワイライトの背中に軽々と飛び乗ります。

「スパイク、それに何が入ってるの?」

「朝ごはんかな。勿論、トワイライトのも入ってるよ」

アップルジャック、ラリティ、ピンキーパイ、レインボーダッシュ、フラッターシャイ。
トワイライトの呼びかけにメーンシックスの面々が集まりました。
事情を把握すると、彼女らは勿論承諾して、一緒にキャンタロット行きの汽車に乗り込みます。
久しぶりのキャンタロットに盛り上がるメーンシックスの面々ですが
トワイライトは心の奥底で、プリンセスの招集に不安を隠しきれませんでした。

キャンタロットに着くと、目を疑う光景がそこにありました。
ポニーで溢れかえっていたのです。いつもの五倍、いや、十倍は軽いでしょう。
そして彼らの顔には、不安と恐怖の表情がこびりついていました。

「おかしいわ、前に来た時はこんなにポニーはいなかったわよ」

唖然とするトワイライトたちの中で、最初に口を開いたのはラリティでした。
そしてそのラリティの一言で、トワイライトたちはハッと我に返りました。

「と、とにかく、プリンセスに事情を聞かないとね。お城の中かな?」

トワイライトは急いで城の門に駆け寄ります。
ですが、何かがおかしいのです。いつもはいるはずなのに、今日はいない。
そう、門番がいないのです。いえ、それだけではありません。
キャンタロットに常駐しているはずのロイヤルガードたちの姿が、先程から一切見かけられません。
城の門も入り口の扉も、開きっぱなしになっています。

城内に足を進めてみると、またおかしな光景が広がっていました。
大広間には見慣れないポニーたちがレジャーシートを広げていて、もはや床が見えません。
彼らはシートの上で毛布を被って震えていたり、静かに寝ていたり、中には読書をする人も。
これではまるで、避難所です。
そしてよく見れば、ロイヤルガードたちはそのポニーたちへの対応に忙しく動きまわっている様子。
トワイライトたちは足元に気をつけて歩き、階段までたどり着きました。
そしてその時、麗々とした声が階段の上から広間に響き渡って聞こえてきました。

「トワイライト・スパークル! もう、遅かったじゃないですか!」

声の主はこのエクエストリアを治めるプリンセス・セレスティア。
彼女はいつものように冷静な面持ちではなく、少しばかり落ち着きをなくしているようです。

「プリンセス、これは一体……? 何か災害でも起こったのですか?」

「いいえ、違います。みな、“悪魔”を恐れてここへ避難して来たのです……」

悪魔なんているわけないじゃん、とレインボーダッシュは大笑い。
確かに、この世界にはドラゴンやマンティコアはいますが、流石に悪魔はいないはずです。
しかし、プリンセスは笑うレインボーを厳しい表情で見つめます。
それを見たトワイライトは急いでレインボーの口を塞ぎました。

「……ここにいるポニーたちが口々に言うのは、山羊の角を持った悪魔が町を襲った、という話です。
 私も最初は信じていませんでしたが、これだけのポニーが避難して来たのです。信じざるを得ません……」

「では、あなたが私たちを呼んだ理由は……」

「そうです、トワイライト・スパークル。
 お友達と一緒にエレメンツ・オブ・ハーモニーを持って、悪魔退治に向かってもらえますね?」

トワイライトたちは目を丸くして、顔を見合わせるのでした。


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